なぜ本を買わないんだ!

第3回 幽霊が見えるメカニズム


[書名]『超常現象の科学
[著者]リチャード・ワイズマン [翻訳]木村博江
[定価]1628円(税込)
[購入場所]文教堂書店赤坂店
[購入理由]超常現象の種明かし本は大好物だから

オカルトが決してなくならないのはなぜか

 30年ほど前、ミスターマリックが、日本テレビの大橋巨泉(おおはしきょせん)さんの番組「11PM」で登場したとき、国民は衝撃を受けた。まさに「超能力」。さらにその後のユリ・ゲラー来日で、日本に超常現象ブームが巻き起こり、テレビをはじめ、あらゆるメディアで超能力や超常現象が取り上げられた。そのほとんどが単なる手品やトリックだったが、1970年代は、手品を超常現象だとか、不思議なパワーだといっても成立する時代だった。

 それが変わったのは1990年代だろう。超常現象を利用するカルト宗教がさまざまな事件を起こし、社会問題化して以降は、手品を超常現象だといってあつかうテレビ番組などは、ほぼなくなっている。しかし、占いや、スピリチュアルのようなものは、まだまだ隆盛を極めている。幽霊やUFOの話題にも、こと欠くことはない。

 こういったオカルト・超常現象ものは、一度科学的に否定されても、手を替え品を替え、いつの時代も新手のものが出てきて、決してなくならない。それはなぜだろうか。

「予知夢」は誰でも見ている?

 端的に言うと、そもそも、我々は超常現象を見たいのだ。だから、見えるのである。

 その観点から超常現象を科学的に解明しているのが、今回紹介する『超常現象の科学』だ。

 私は昔から科学の話題が好きなのだが、一方で、超常現象や、オカルトのたぐいも好きなジャンルの一つで、とくに、超常現象を科学で分析する、といった本は大好物だ。この本は、そのような本の決定版といってもいい。占い、幽霊、念力、予知など、さまざまな超常現象を、ユーモアを交えて、科学的に解明している。

 その一例に「正夢(まさゆめ)」や「予知夢」がある。何か事故や災害が起こると、「これは夢で見た! 予知夢だ」と言う人が現れて話題になることがあるが、この現象もこの本で説明されている。

 たとえば、「ある事故を予言する夢を見た」という人がいたとする。しかし、極端にいえば、ほぼすべての人間は毎日寝ていて、その何割かは夢を見ている。それが何日も続けば、見る「夢」の数はものすごい大量になるから、その中の一つに実際に似たような事故の夢があっても、それほどおかしくはない。それをたまたま見た人が、「予知夢だ!」と言うと、普段、夢の数なんて意識しない人は「すごい!」と思ってしまう。

 つまり、これらは、超能力ではなく、人間の心理が引き起こす現象だ。そして、ほかの超常現象も、このような人間の心理に作用するトリックや、勘違いなどが原因であることがほとんどなのである。

科学は「幽霊」を否定しない

 この手の本は、幽霊や超能力のような超常現象を、科学を用いて「否定」する、というものが多い。そのような立場だと、幽霊が見える、超能力を信じる、というような人をある意味「おかしい人」というふうにとらえてしまう。しかし、そんなふうに人を一刀両断に否定したところで、反発されるだけで、それらを信じる人が減るわけではない。

 この本の面白いところは、「幽霊が見える人」を否定しないところだ。本の帯に書いてあるキャッチコピーからして「あなたにも幽霊が見える!」。

 多くの人間は、不思議なものを信じたいし、幽霊だって見たい。見たいから、何か理解できないものが目に入れば幽霊に見えるし、「見える」という人の言葉を信じてしまう。私はあまりそういったものを信じるタイプではないが、しかし、そんな私でも、本当に見たいと思えば「幽霊」が見えてしまう、科学的、心理的なメカニズムが存在するのである。

 超常現象を信じない人も、肯定か、否定か、というような息苦しい議論をするよりも、そんな「幽霊が見える」メカニズムがあることを知って、許容すれば、世の中をもっとおもしろく見ることができるのではないだろうか。

2012年8月10日更新 (次回更新予定: 2012年9月1日)

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