なぜ本を買わないんだ!

第11回 将棋が持つとてつもなく深い世界

QS_20131220-184035
[書名]『将棋』法政大学出版局
[著者]増川宏一
[定価]1300円
[購入場所]不明

将棋好きの原点

私が将棋好きであることは、これまでも何度も書いてきた。将棋に関する本もたくさん読んできたが、今回はその私の将棋好きの「原点」のような本をご紹介する。

子供のころ、たまに家で近所の会合のようなものがあり、その会合のあとはいつも、大人たちが飲み食いをしたり、麻雀(マージャン)や将棋をしたりしていた。私は当時からパズルやゲームが好きだったから、その大人たちがやっていた縁台将棋を横から見ていて、自然にルールや指し方を覚えていった。それでまわりの大人に教えてもらったり対局したりしているうちに、大人にも勝てるようになってきた。

学校の仲間やまわりの大人たちの中では私が一番強く、プロになりたいと思ったこともあったが、道場で先生に教わることもなかったため、なり方がわからなかった。もしあのころに親が「この子を将棋のプロにしよう」と私をどこかの先生に弟子入りなんかさせていたら、もしかしたらプロにもなれていたかもしれない。(笑)

27歳で出会った本

その後、碁にはまったり、高校受験があったりして、将棋から少し離れていたが、その熱が再燃したのは、私が高校を卒業して(財)気象協会に就職し、24歳で東京に転勤になったときだ。東京の協会では夜勤の仕事があり、夜勤中の余った時間に、同僚とトランプや将棋などをして暇つぶしをしていた。あるとき、先輩に将棋をやらないかと誘われて一局指したのだが、小中学校時代には敵なしで自信があった私は、その先輩にコテンパンに負かされてしまった。

それが悔しくて、なんとかその先輩に勝とうと、ほかの同僚と一緒に道場に通ったり、本や雑誌を読んだりして将棋の勉強を始めた。そのおかげでめきめきと強くなり、アマチュアの大会に出て団体戦で入賞するほどにまでになった。もちろんその先輩にも勝てるようになり、気象協会で一番強いと自負していた。

しかし、あるとき「自分はこれ以上強くなれない」という壁にぶち当たった。いくら勉強しても強くなれないし、負けても悔しいと思わなくなった。それで将棋熱が少し冷めてしまった。

そんなとき、ふとゲームとしての将棋ではなく、将棋の「周辺部」を見てみようと思った。周辺部とは、つまり将棋の成り立ちや駒などの「文化」のことである。

それで最初に買ったのがこの『将棋』という本だ。奥付を見ると、1977年12月、当時私は27歳である。この時はなんの気なしに買ったのだが、著者の増川宏一氏は、将棋やギャンブルに関する著名な研究者である、ということをあとで知った。

この一冊で将棋熱が再燃

この一冊を読めば、将棋というものの歴史と文化のあらましがわかるようになっている。将棋の起原はチャトランガというインドで生まれたゲームで、それが西洋へ伝わってチェスになり、東洋に伝わって将棋になったといわれている。

また東洋の将棋だけでも日本のほかに、中国、朝鮮、タイ、ビルマなどでさまざまな将棋が遊ばれている。奈良時代にはすでに伝わっていたという日本でも、現在のスタンダードである本将棋のほかに中将棋、大将棋など、実にさまざまな種類がある。

この本は、それら世界各国の将棋の解説や、それぞれの歴史、ルールの変遷、日本の将棋における儀礼・作法、はては駒の製法まで、将棋をとりまくあらゆるものを解説した、将棋好きなら必読とも言える本だと思う。

単なるゲームだと思っていた将棋に、こんなに深い歴史や文化がある。壁にぶち当たって一時期熱が冷めかけていた私は、これを読んでまた将棋がまた好きになった。

それ以降、詰将棋や戦法解説の本だけではなく、こういった将棋文化に関する本も読むようになった。それらの中にはほかにも面白いものがたくさんあるので、また次の機会に紹介していきたい。

森田さんの連載「なぜ本を買わないんだ!」は、2014年夏、書籍化いたします。現在鋭意編集中。お楽しみに

2013年12月20日更新

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