キリギリスの復権

第1回 アリの組織 vs キリギリスの集団

ストックからフローへ

有名なイソップ寓話の『アリとキリギリス』では、夏の間のコツコツと「蓄財」したアリは冬を越すために万全の準備をしていたのに対して、「遊び呆(ほう)けていた」キリギリスは冬の蓄えもなくアリに助けを求める、端的に言えば「キリギリスを戒めアリをたたえる」という話でした。

もちろんこれは、勤勉の重要性を説くという点で普遍的かつ不変的なメッセージを持った物語ではありますが、現代においてはまた別の解釈をすることができます。それは「知識に関しての蓄財と消費」とう観点からです。

環境変化と技術の進歩のスピードが早くなり、新しい発想が求められ、インターネットの世界のように、誰もが利用できる巨大な「知識庫」が存在し、それを前提にした新しい仕組みを簡単に構築できるようになった現代においては、個人にとっての知識の重要性も少し意味合いが変わってきています。

それは一言で表現すれば「ストックからフローへ」という流れです。知識という蓄積を前提にしたものも、単に「豊富な知識を有している」ということなら、インターネット上の「知識庫」をいつでもどこでも誰でも利用できるようになってきています。したがって、人間一人一人がやるべきことはそれをいかに活用してそこから新しい次の知識を生み出せるかということに変わってきているということです。

また、変化が激しい時代においては、過去の知識や成功体験を頼るだけでなくあえてそれを捨て去ることも重要になります。このような時代にはむしろ「キリギリス」のように、「いまあるものは使って、いまに最大限活かす」という発想も重要になってきます。つまり、キリギリスの活躍の場が増えてきたのです。

アリとキリギリス、三つの違い

ここで、本稿でいうアリとキリギリスとは何か、その違いを3つの視点から定義しておきましょう。

一つ目は先述の「フローとストック」の違いです。「持つものの発想」と「持たざるものの発想」の違いと言ってもよいでしょう。

そして二つ目は、「閉じた系と開いた系」という違いです。巣を持っているアリと巣を持たないキリギリスとの違いというイメージです。思考回路の違いでいうと、巣の内と外で明確な線引きをし、常に組織の論理で自組織を最優先に考えるという発想です。

そして最後の三つ目が「固定次元と可変次元」の違いです。要は「前後左右」という2次元の動きだけしかできないアリと、「飛ぶ」という選択肢を持って2次元と3次元を行ったり来たりできるキリギリスとの違いということです。思考回路で言うと、「思考の自由度」の違いとも言えます。

 

アリとキリギリスの違い
アリとキリギリスの違い

 

これら三つの違いを持ったアリとキリギリスは、「決められた枠の中を最適化する」という問題解決型人材と、「白紙から新しい枠を定義する」という問題発見型人材との違いとも言うことができます。

アリは「巣を中心に生活する」という点で、優秀な組織人ということができます。これに対してキリギリスは「巣を持たない」ので、組織の枠を超えて活動する人たちをイメージできます。

アリの組織とキリギリスの集団

このように、旧来型のアリの組織に対して、キリギリスを活かすための組織は異なります。キリギリスの三つの特徴を考えると、そもそもキリギリスが組織で仕事をすること自体が自己矛盾なのですが、そうはいってもキリギリスとて一人で何でもできるわけではありません。したがって他の人たちと弱みを補いながら、自らの強みを最大限に活かすような働き方が重要になってきます。

もはやこの場合の「キリギリスの集団」は従来の組織とは大きくことなったものになって当然です。本連載では、旧来型の「アリの組織」に対して「キリギリスの集団」がどう違うのか、あるいはどうあるべきかについて考えていきたいと思います。

2014年6月15日更新 (次回更新予定: 2014年7月15日)

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