キリギリスの復権

第2回 アリが引いた線を引き直すキリギリス

アリの組織とキリギリスの集団、今回から具体的に「アリの組織」と「キリギリスの集団」の違いを一つ一つ見ていきたいと思います。まず、本連載の第1回で示した、「アリとキリギリスの三つの違い」を復習しておきます。

①フローとストック

②閉じた系と開いた系

③固定次元と可変次元

今回はこれらを踏まえ、「キリギリス」の思考回路を持った人が活躍できる環境について考えていきます。

  

アリは「境界がないと動けない」

そもそも本連載第1回の「アリの組織 vs. キリギリスの集団」というタイトルが象徴するように、アリは「組織の内外」を強く意識します。思考回路で言うと「閉じた系で考える」のがアリで、その大きな特徴は二つあります。それは、「線を引く」ということと、そこに「内と外がある」ということです。

アリの思考は、「誰かが引いた線を基準にして考える」が基本です。アリが大前提とする「組織」というものは、縦方向と横方向に引かれた「線」から成り立っているものだからです。

縦方向の線は、役割分担のことです。大人数の集団がうまく機能するためにはこのような役割分担が必須です。経理の仕事、営業の仕事、さらには営業であれば自分の「担当顧客」や「担当地域」を明確に定義することで秩序が保たれて系統だった仕事が可能になります。

次に「横方向の線」は、組織の階層のことです。上司・部下の関係、そして「上意下達」のピラミッド構造を強く意識して行動するのがアリの特徴と言えます。

これらに加えて数々ある社内規則も、「線を引いて考える」ことの代表例です。大きな集団を維持し、運営するためには規則が重要になり、そこには当然「◯◯以上は××だが、□□未満は△△である」といった「線引き」が不可欠になります。たとえば出張の手当を出すのは何キロ以上の場合とか、どこそこ地域の場合は特別手当が出るとか、何時以降は深夜手当が出るとか、そういう線引きです。

  

キリギリスは「線引きを気にしない」

これに対してキリギリスは「線引きは手段にすぎず、目的に応じて適宜変えてしまえばよい」という感覚を強く持っています。その問題意識があるからこそ、「理にかなわない世の中の線引き」に簡単に気づくことができるのです。

アリは、前述のように一度誰かが引いてしまった線を疑うことなく、それを絶対視して、現実を線に合わせようとします。対するキリギリスは、線のほうを現実に合わせようとするのです。

先述の組織の「縦横の線引き」に関しても、これを絶対視するアリに対してキリギリスはことごとく違和感を覚えます。役割分担や組織の上下関係は「秩序を守るため」という、提供者側の論理からすればきわめて説得力のあるものですが、そもそも組織が存在する目的や受益者視点からすれば、環境変化に応じてフレキシブルに変えていくべきものとキリギリスは考えるからです。

「オンとオフ」の線引きに関しても、規律を重視するアリには大問題ですが、キリギリスは「遊びのように仕事をし、遊びのときも仕事に結びつけようとする」という、境界を曖昧(あいまい)にした働き方をします。この根本には「仕事はお金をもらうために我慢してやるもの」というアリの価値観と、「たとえ給料が安くても好きなことを仕事にしたい」というキリギリスの価値観の違いもあるかも知れません。

  

進む「線引きの曖昧化」

環境変化によって「線のあり方」そのものが変わってきている状況は、ビジネスに関連するだけでも数々の事例が挙げられます。例えば以下のような「境界の曖昧化」が挙げられます。

●職場内と職場外

ネット環境の飛躍的な発展によって、モバイルワーカーやノマドで仕事をする人が増えていることで、どこまでが職場でどこからが職場外かが曖昧になりつつあり、セキュリティ上の課題等が噴出しつつあります。

●社内と社外

アウトソーシングやオープンイノベーションの進展によって、どこまでが社内でどこからが社外かという境界が曖昧になってきています。

●専門家と素人

ブログやSNS等でのネット上の発信は、「専門家が発信し、素人がそれを受信する」とうい構図を崩してしまっています。

●「国内」と「海外」

以前の組織は明確に「国内」と「海外」を区別していましたが、グローバル化の本来の意義は、これらの境界をなくすということではないでしょうか。

●製品の境界

スマートフォンやタブレットの登場は「PCか携帯か」の線引きを無意味なものにしました。さらに自動車も電子機器との境界があいまいになったり、家電がネットワーク機器になったり、製品カテゴリーも流動的になっています。

●業界の境界

通信と放送の融合が代表的ですが、上記の製品の境界が曖昧になるということと「にわとりとたまご」の関係で、業界の境界も崩れてきています。

  

このように、「境界の曖昧化」がスピーディに進んでいるビジネス環境では、「線を現実に合わせる」というアリの発想から、「実体に合わせて線を引き直す」キリギリスの発想が重要になってきます。

同時に、組織においても、秩序重視を最優先したあり方から線引きを自由に変えられるあり方へと変化させていくことが必須になるといえます。

2014年7月15日更新 (次回更新予定 : 2014年8月15日)

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