「秩序と序列」を重視するアリの組織と、「創造性」を重視するキリギリスの集団では組織の運営の仕方が違って当然です。今回は組織運営といえば欠かすことのできない会議について、アリとキリギリスの考え方や行動の違いを考えてみます。もちろんキリギリスにとってもコミュニケーションは大事ですが、「創造への貢献」という観点で、優先順位は下がります。
アリ「こんなに仕事をしている」
キリギリス「これじゃ仕事ができない」
組織で働くアリにとって、組織が秩序立って運営されることが最も重要なことの一つです。社員に対して「コミュニケーション能力が重要」というメッセージが頻繁に発せられ、採用基準においてもその能力が最も重要視されるのがアリの組織の特徴です。組織で動くアリにとってコミュニケーションは最も重要な要素の一つであり、アリの組織では根回しや説得工作といったコミュニケーションに長けている人が昇進していきます。
組織におけるコミュニケーション手段として最たるものが会議ですが、これに対する考え方もアリとキリギリスでは異なります。アリは「会議そのものが目的」と考え、キリギリスは「会議は単なる手段」と考えます。こう言うと、アリの側から「そんなことはない」という反論が出てきそうですが、(形骸化した)「定例会議」や「『報告のための報告』の会議」が数多く存在していることがその証明です。
もちろん「定例会議」や「報告会議」も、当初は何らかの「その先の目的」があって始まったはずですが、やがて形骸化し、「開くことが目的」になって、大抵の場合、「報告する側」は「報告のための報告」に終始することになります。
報告といえば、「ほうれんそう」(報告・連絡・相談)があります。「アリ上司」は「ほうれんそう」をやかましく言います。「ほうれんそう」にもとづいて、上司の側が何らかの助言やアクションを起こすためではなく、多くの場合、報告自体が目的化しています。「キリギリス部下」がそのような上司の下で働く場合の生産性とモチベーションの低下には著しいものがあります。
アリの組織の中で働くキリギリスは、このような会議を嫌います。「会議の予定でびっしり埋まったスケジュール表」を見たとき、アリは「こんなに仕事をしている」と感じますが、キリギリスは「これじゃ全然仕事ができない」と思います。会議が目的のアリにとっては、会議をしている時間は仕事の時間ですが、会議は単なる手段と考えているキリギリスには、自分でじっくりと考えて創造的な活動をする時間が仕事の時間です。「スケジュール表にあらかじめ書ける」ような仕事は、キリギリスにとっては付加価値が低いのです。
会議のカルチャーショック
ベンチャー企業の人が大企業の人とビジネスをするときの「カルチャーショック」の一つが会議に出席する人数の多さです。なぜこんなに大勢の人が必要なのかと不思議に思いますが、よくよく聞いてみれば、「私は◯◯担当」「こちらは××担当」「あの方はそちらの上司で……」といった具合です。
会議の出席者が大人数になる大きな要因は、組織が縦方向(階層)にも横方向(部門)にも細分化されていて、一つの話をするにも多数の人間が関わらなければならないということです。これはこれで十分理解できる事情ではあるのですが、結果として会議中に「一言も発言しない」出席者が多数発生します。これが、「なぜこんなに大勢の人が?」という疑問が生まれる理由の一つです。
会議で発言しないことが許されてしまう理由の一つが、上述した「会議は出席することが仕事」と思っている人が多いということです。「会議で情報を収集し、それを自部門に広めるのが目的だから黙っていても意味がある」という考え方も一理ありますが、だとしても、「その先」を考えて能動的に情報収集をするのであれば、会議中の質問につながってしかるべきでしょう。
アリの会議でもさすがに無言の出席者が多いのはまずいと思うのでしょう、「会議に出たら発言すべし」という指導があったりしますが、そもそもこのような指導があること自体、キリギリスからすれば滑稽(こっけい)な現象です。「発言(や貢献を)しないなら、出席しないで他のことをしているほうが誠実である」と考えるキリギリスと、「たとえ『無言』でも出席するのが誠実である」と考えるアリとの決定的な思考回路の相違です。
一方、キリギリスの会議は必然的に「必要最低限の人数」になります。アリの組織でもよく「会議の出席者は必要最低限に……」といったスローガンが唱えられますが、そもそも「何をもって『必要』とするのか」という意識を合わせない限り、このかけ声だけで出席者が減ることはありません。みな、「自分の仕事だ」と思って出席しているからです。
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このように、組織内の会議一つをとってもアリの意識とキリギリスの意識は異なります。効率的かつ効果的な会議を運営するため、そして「アリの組織でキリギリスが死んでいく」ことを防ぐため、「膨大な時価を費やす会議」に対する考え方の「違いの認識と共有」が重要です。さらにそのためには、いまの組織や集団が何を目指しているのか、その方向性を共有することが重要になるでしょう。
2014年8月26日更新 (次回更新予定: 2014年9月20日)
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