キリギリスの復権

第4回 持つ者の発想、持たざる者の発想

アリとキリギリスの最大の思考回路の違いは、イソップ童話でもクローズアップされた「貯める」アリと「使う」キリギリスの違いです。今回は「ストック重視」のアリと「フロー重視」のキリギリスとの発想の違いを見ていきましょう。

「持つ者」の弱み

ストック重視とフロー重視の違いは、「持つ者の発想」と「持たざる者の発想」の違いとなってあらわれてきます。もちろん、アリも蓄財している段階では必ずしも持っている状態ばかりではないですが、そもそも蓄財を善とする価値観を持っているということは、アリにとってのあるべき姿はあくまでも「ストックをたくさん持っている」という状態であるということです。

それでは「持つ者の発想」と「持たざる者の発想」は具体的にどのように違うのでしょうか?

ここでいう「持つ者」としてわかりやすいのが、いわゆる「ヒト・モノ・カネ」、つまり、従業員や人脈等の人的資産、お金や有価証券等の金融資産、建物や工場設備等の物的資産等です。さらにそれらに加えて、知的な資産、つまり知識や経験等もそれに相当します。

「持つ者の発想」とは、「いまあるものを最大限に活用しよう」という発想です。いま持っているものは基本的に自らの強みになりますから、そこを活かして考えるというのは非常に理にかなっています。

時代の変化がゆるやかであるときには、この考え方はおおむね有効ですが、変化が激しい時代、あるいは変化が求められる状況においてはむしろ負の効果が生まれます。

一つには、環境変化によって、それまでの資産の価値が一気になくなってしまう可能性があります(為替が変動しようが、株価が変わろうが、もたざるキリギリスには関係ありません)。加えて、ストックはそのまま、「慣性力」として働き、変化への抵抗となってあらわれます。

「持たざる者」の強み

ここで一気に力を発揮するのが「持たざる者」としてのキリギリスです。さまざまな「しがらみ」を持たず、「腰が軽い」キリギリスはあっという間に環境に適応して新しいことを始めようとします。新しいチャレンジに何の抵抗もないばかりか、それを楽しめるのがキリギリスです。

「持つ者の発想」とは守りの発想であり、「持たざる者の発想」は攻めの発想ということになります。言い換えれば、守るものがあるから守りになり、守りたくても守るものがないから、必然的に攻めに行くということになります。

皮肉なことに、というか世の中うまくできているというか、「創造的でアイデアがある人のところにお金はなく、お金がある人には創造性やアイデアがない」という状態は、古今東西よくあるパターンのようです。芸術家とパトロンの関係、起業家と投資家の関係等にそのパターンが見られます。

「お金がない」からアイデアがあふれてくる

ただ考えてみると、この構図もある意味必然ではないでしょうか。創造性のあるキリギリス的な人は、「お金がない〈のに〉アイデアがあふれてくる」のではなく、「お金がない〈から〉アイデアがあふれてくる」のではないでしょうか?

その理由がまさに今回のキーワードである「持つ者」と「持たざる者」の関係にあります。持つ者は常にしがらみにとらわれます。何かにとらわれるということは、斬新な発想からは遠ざかっていくことになります。

はじめは「持たざる者」だったキリギリスも、やがて実績を積み重ねていくとアリの思考になっていくのはある意味必然ですが、そうならずにいつまでもキリギリスであり続ける人もいます。そういう人はたとえ財産があっても、それに対する(よくも悪くも)「執着心のない人」ということになるのでしょう。

2014年9月15日更新 (次回更新予定: 2014年10月15日)

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