怪しげな著者だがおもしろい
私は、ある本をおもしろいと思うと、その著者が書いた他の本を集中的に読む。第1回で取り上げた作家の橘玲(たちばなあきら)さんなどもその一人で、ある時期は、橘さんの本が出るたびに読んでいた。
最近、読んでいるのは、藤沢数希(ふじさわかずき)という人の本だ。彼は有料メルマガを発行していて、私はそれも購読している。これがまたおもしろい。
藤沢さんの専門である金融の話題のほか、「恋愛工学」と銘打って、「モテ曲線」の変遷や、「労働市場」「恋愛市場」「結婚市場」の相関、といった切り口で男女関係を分析している。これらについては詳しくは書かないが、男として納得させられるようなことも多かった。興味がある方はメルマガを購読してみるとよいと思う。
藤沢さんの本職は、トレーダーらしい。変わった経歴の持ち主で、本に記されたプロフィールによれば、欧米で物理学博士を取得、その後外資系金融会社に入り、トレーディングなどに従事しているという。
らしい、と書いたのは、本当のところはよくわからないからだ。本名も、年齢も、博士号を取ったという大学も、その後勤めたという会社の名前も、具体的には何も書いていない。だからなんとなく怪しいのだが、たしかにトレーダーでないと知らないだろう、ということが詳しく書いてあり、金融という分野に関して相当の知識を持っていることは確かだ。
今回紹介する本は、そんな藤沢さんの最新作『外資系金融の終わり』である。
リスクを取らない大企業の「不正義」
この本の中身を一言で言うと、「外資系金融マンの生態学」だろうか。本書には、外資系金融に勤め、億単位の収益を上げる人たちの働きぶりや年収、さらに接待やリストラの実態など、彼らの「生態」が生々しく描かれている。そしてそれらの描写から、金融業界の未来についての藤沢さんの考えが見えてくる。
藤沢さんの考え方は、多かれ少なかれ「リスクをとってリターンを求める」ということがあらゆる経済活動の基本であり、それを徹底することが、健全な資本主義社会につながる、ということだ。
しかし現在、「リターンだけを取ってリスクを取らない」という「不正義」が横行しているという。金融にかぎらず、巨大な企業は、倒産することがない。倒産してしまった場合に経済へもたらす影響が大きすぎるために、国家が税金を投入して救済するからである。日本でいえば、一時期の銀行や東電などがいい例だろう。
このような、リスクを負わずにリターンだけ取っているという状態は不健全であると、藤沢さんは主張する。
この本には遊び心もある。たとえば接待の話の中で、
「六本木で■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■った」
のように、戦後の教科書に見られたような黒塗りの部分が出てくること。読んでいれば中身はなんとなく想像できるが、このような伏せ字が出てくる本を読んだのは初めてだ。
2012年10月1日更新 (次回更新予定: 2012年11月1日)
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