会社の「これ本当に必要?」

第2回 「好き嫌いで仕事をするな!」という教え

本連載は、画一的な効率性を重視した「旧来型の組織」では殺されてしまう創造性を発揮するための「新しい組織」について考えます。ここでの「新しい組織」とは、旧来型の組織と完全に置き換えるのではなく、創造性が必要とされる業務を切り離して旧来型の組織とは別の考え方で運営する組織を指します。

じつに象徴的な言葉

「旧来型」のマネジメントスタイルは依然として必要ですが、それが創造性を殺してしまうというジレンマをどう克服するか。一つの方向性は、そうした異なる属性を持った仕事に関しては組織を切り分けて別のやり方で運営することです。そのためには旧来型の組織で当然とされてきたことを一つ一つ疑ってかかり、それらの必要性を検証していく必要があります。

本連載ではこれから、その具体例をあげていきますが、今回は、会社でよく聞かれる言葉「好き嫌いで仕事するな!」です。

この言葉はじつに象徴的です。なぜならば、旧来型組織で重要視されてきた「平均点を上げる」ことや「著しく低い品質のアウトプットを最小化させる」ことが「尖(とが)ったアウトプットを殺す」ことになる典型的な考え方と言えるからです。

会社というものは成長に伴って顧客の期待値も変化していきます。スタートしたばかりのベンチャー企業に期待されるのは、他にない個性的な製品やサービスや品質です(だからこそ起業するわけですから)。ところが会社が成長して「一人前」になり、それなりに知名度が上がったり会社の信用が上がったりしてくると、顧客側の会社への期待値も変化します。

私たちが「聞いたこともない会社」と「よく知っている有名な会社」との間で選択に迷った場合に「よく知っている会社」を選ぶ理由は何でしょうか? 恐らく「何か合った時に安心だから」ではないでしょうか?つまり「思ってもいなかったすごいものやサービス」ではなくて「とんでもなくダメなものや状況を避けたい」となってくるわけです。

このようにして大抵の「まともな会社」というのは、先述のような旧来型の価値観や運営形態になって「最低を引き上げて平均レベルを上げる」ことに向かっていきますが、このことが「上の尖(どんが)り」の芽も摘んでいきます。

「好き嫌いで仕事をするな」は「機械のようになれ」ということ

「好き嫌いで仕事するな!」というのは、要するに「嫌いな仕事だからといって手を抜くな」という、「好き嫌い」という感情で仕事をすることの否定的側面を最小化するための言葉と考えられます。もちろん仕事の基本ができていない新入社員や若手社員にとってこの言葉は意味があるかも知れませんが、同時にこれは「上側の個性的な仕事」も殺してしまうことになります。

「好き嫌いで仕事しない」ということは突き詰めれば「機械のようになれ」ということです。機械がする仕事は、悪い意味でのサプライズもないかわりに良い意味でもサプライズもありません。言い換えれば、「好き嫌いですべきではない仕事」は最終的には機械が置き換えていくような仕事でしかないということです。

人間でしかできないような独創的なレベルの仕事というのは「好き」という感情の延長線上にあることがほとんどです。突出したレベルの仕事や独創的な仕事は、集中力を維持して熱中するため、「好き」であることは必須となるでしょう。

「好きな人」と「Yesマン」は違う

「誰と仕事をするか?」についても同様に、「好き嫌い」が問題になります。「好きな人も嫌いな人も平等に付き合え」というのは、仕事の下ぶれを最小化するためには意味がありますが、だからといって「担当だから」という理由だけで仕事をしている人にサプライズが起こせるほどの仕事ができるとはとても思えません。
本当に創造的な仕事をするためには、「好きな仲間でチームを作る」ことが必須の要素といえるのではないかと思います。

ただここで気をつけなければならないのは、「好きで仕事をする」というのと、「自分にとって心地よい領域で仕事をする」というのは似て非なるものだということです。自分が楽をできる、いわゆる「コンフォートゾーン」の中だけで仕事をしていても進歩はありません。「好きな人と仕事をする」というのは、いわゆるYesマンとだけ仕事をするというのとは大きな違いがあることは肝に銘じておくべきでしょう。

別の表現をすれば、新しいことを仕事にする、新しい人と仕事をすることに対して「好き」と思えることが、創造性を発揮するための必要条件ともいえるでしょう。

2013年11月5日更新 (次回更新予定: 2013年12月1日)

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