好評発売中の『ハスラー』原著”Reinventing Professional Services”の著者アリ・カプラン Ari Kaplanさんが、本書出版にあたり、「まえがき」を寄せてくださいました。カプランさんは、日本にも滞在経験があるとのこと。本書出版を非常に喜んでいただいています。
『ハスラー』収載のまえがきを全文公開いたします!
著者まえがき 日本語版に寄せて
Ari Kaplan アリ・カプラン
ボストン大学を卒業した直後の一九九三年七月、私はニューヨークからJAL便に乗り、一年間のJETプログラム(訳注―The Japan Exchange and Teaching Programme「語学指導等を行う外国青年招致事業」)における兵庫県での補助教員生活のため、初めて東京に向かった。
翌日の早朝、時差ぼけを解消しようと都心に散歩に出たとき、冷蔵庫を梱こん包ぽ うするための段ボール箱に住んでいるホームレスを何人か見かけた。大都会に住んでいた人間としては新宿駅のこの光景には格段の驚きもなかったが、そこで衝撃を受けたのは、各々の箱の外にきれいに並べてあったその「住人」のものと思われる靴に対してだった。それはその人個人の尊厳とともに日本という国の特筆すべき性格を表すものだった。
私は続く十二ヵ月間、日本語や日本文化、そして関西の人たちの人柄を学んだ。毎週末に黒いヤマハのスクーターで鈴す ず蘭らん台だ い(神戸市北区)から阪急三さんの宮みや駅まで下りてきて、そこから大阪まで電車で出かけていった。
そこで私は、相撲や阪神タイガースファンの美学など、数えきれないほど多くのことを学んだが、特に二つのことが私のキャリア形成に役立った。
一つ目は私の生徒たちが教えてくれた「だるま」である。それは本書に一貫して流れる、目標設定とアクションに関するメッセージそのものと言える。
二つ目は「一生懸命」という概念である。日本に着いてすぐに日本語検定四級の勉強を始めた私の努力に気がついた先生たちは、「一生懸命」の重要性について説明してくれた。それは日本固有の物事への取り組みや姿勢であり、私はその良さをすぐに理解した。私はこの考え方を生涯のキャリアを通じて、自らのハードワーク、創造性および顧客価値志向のサービス提供に誇りをもって活かそうとしてきた。
最高の先生になろうと努力したが、結局のところ私は一人の生徒でしかなかった。実際、同僚も私も、生徒たちに教えるとともに学んでいたのだ。それはみごとな双方向の共同作業だった。
毎日が冒険でありチャレンジであり、ミステリーでもあった。
それから約二十年の歳月が過ぎた今、市場は大きくは変わっていない。プロフェッショナルサービスの提供者は毎日同じような状況に直面している。クライアントからの期待値は変化し、我々の挑戦は日々大きなものとなっているため、これまで以上のスピードでこれらに対処する必要がある。テクノロジーの進歩がもたらしたデジタル時代は、ミステリーと冒険の融合によって特徴づけられるだろう。
今日ではクライアントは、自分たちの悩みごとや意思決定の意味合いを理解し、手助けしてくれる人を求めている。旅の行き先と希望を一緒に見つけてくれるパートナーを探している。彼らは単に情報を求めているのではなく、そこからの洞察やものの見方、あるいはリスクを共有してくれることを求めている。
本書は各読者が専門性を際立たせ、読者自身のブランドを向上させるべく、各自の目標に合わせてカスタマイズして使えるようになっている。ここで論じられている原理原則は読者の個々のプロとしてのコミットメントに関連づけられ、イノベーションのアイデアは、日本人や日本文化、そしてビジネス慣習への私の敬意も反映したものとなっている。
神戸港北高校で一年間私の面倒を見てくれた兵庫県の皆さんの寛大さ、ホスピタリティ、親切心に深く感謝するとともに、本書の日本語版によって、自らのブランドを築き、仕事の仕組みを作り上げ、そしてクライアントとの最高かつ最強の関係を築こうとしている人たちのお役に立てることを光栄に思う。
この日本語版を、そうした日本の読者とともに、特にJETプログラムのフィービー・ダン氏、直属の上司であり友人であった名波彰(ななみあきら)氏に贈る。さらに訳者である細谷功氏に感謝の意を伝えたい。