『サイエンスジョーク 笑えたあなたは理系脳』の「まえがき」全文公開!

まえがき

いったい理知的で論理的な科学(サイエンス)と,くだらないふざけた冗談(ジョーク)が,はたして一緒になれるものなのか,訝(いぶか)る方もおいででしょう。けれどもじつはこのサイエンスジョーク,意外に盛んな勢力をジョーク界の中に占めているのです。

その理由は,一つには人類の営みのあるところ,どこでもジョークは生じるもので,無数の人々の携わるサイエンスという一大産業の現場において,ボケや皮肉やナンセンスが生まれて飛び交うのは必然だからなのですが,もう一つの理由に,論理とジョークの相性のよさがあります。秀逸なジョークは高度に論理的であり,論理を知る人は触れれば切れそうに鋭利なユーモアを示すことがあります。

本書では,数多く存在しながらこれまであまり紹介されていない,サイエンスにまつわるジョークを集めました。これら滑稽(こっけい)な物理学者や科学者,科学法則のパロディ,噴飯(ふんぱん)ものの疑似科学は,サイエンスに携わる人々の営みから発生したものです。つまり宿題に悩む学生の呻吟(しんぎん)や,精緻(せいち)な科学の法則に触れた感動,天才科学者のとんだ奇行が,これらジョークの源です。

もしサイエンスジョークが敬遠されてきたとするなら,それはやはり受け手にある程度の科学知識を要求するからでしょう。それぞれのジョークに,背景となる科学の解説を加えました。

ジョークは口から口へと伝えられ,バリエーションが奏でられ,どこの誰が創作したものか,わからないものがほとんどです。紹介するのは,人類のいわば共有知的財産ですが,作者が判明したものはクレジットしました。筆者の創作も混じっています。

いやだがしかし,笑いは一瞬で決まる真剣勝負です。どんなに優れたジョークも,タイミングが 1 ms(ミリセカンド)外れれば,出会いが 1 nm(ナノメートル)すれ違えば,笑いを爆発させることはできません。あたりにうすら寒い空気が漂う結果に終わります。

そして不幸にして笑いを誘発できなかったジョークにどんな解説を加えても,面白さを蘇(よみがえ)らすことはできません。それは死者の致命傷に塩をぬるようなものです。一方,タイミングと出会いと受け手の体調がロイヤルストレートで出揃(そろ)って,ジョークが爆笑中枢に会心の一撃を与えたならば,もう解説など不要なことはいうまでもないでしょう。笑い転げている人にそんなものは無用です。

結局,ジョークに本来解説などいらないわけです。ならばそれにさらにまえがきを添えるのは,蛇足にハイヒールを履かすようなものでしょう。このへんでやめて,本題のジョークに移りましょうか。

 

2012年12月

小谷太郎(こたにたろう)