「談志市場」レーベルでは、人気のクラウド動画コンテンツ「談志の高座@クラウド」シリーズの第8席『短命』(https://shop.dze.ro/contents/108)」の販売を開始しました。これにあわせて、談志師匠自身による、落語『短命』の解説(立川談志『立川談志遺言大全集1』より)を見てみることに。この解説自体が面白いので、読んだだけで満足せずに、ぜひ動画で、談志版『短命』をお楽しみください。
■解説――色気抜きの艶噺(つやばなし)
この種の落語を「艶笑落語(えんしょうらくご)という分類(わ)け方がある。つまり、艶(いろ)っぽい落語、お色気落語ということだが、艶(いろ)っぽいとはいっても、落語ではほとんど閨房(ねや)のシーンはない。お女郎買い(おじょろかい)に行く、ワァワァ飲んで踊って、騒いで〝サァお引け〟ということになって、その後は〝なーし〟、〝烏(からす)カアで夜が明けて〟とこうなる。昨夜(ゆんべ)の成績を連綿と喋(しゃべ)るのもない。
まあ、寄席には家族で来る客もあり、女、子供も来るから、そういう場面(ところ)は演(や)らなかったし、演るもんでもない、と先輩は言っていたし、仮に演ったとしても、さりげなくソレを喋って、理解(わか)る相手にだけ理解るという演り方。もっと正確に言うと、そのことが理解ったとしても、理解らない振りをしてても済むような状況にして喋るべきだ、という一つの不文律があったことは確かである。
だが、待てよ。ことによると、その昔はもっと艶(いろ)っぽかったのではなかったか。
しかし、明治の御代(みよ)ともなって神国が始まり、助平な将軍に代わって、そうでない振りをした天皇が出現した。戦争が始まり、戦争(いくさ)を優先するために、こういう艶事(いろごと)の話というのは兵隊の士気に障(さわ)る(逆なんだが……)、軟弱であるからというんで、色気(これら)を取り払ったばかりか、その国策に追従して、〝はなし塚〟という実に馬鹿げたものを作って、そこへその種の落語を「禁演落語」と称して埋めてしまった。
戦争に負けて、また掘り出したのだが、落語家は不精(ぶしょう)で不勉強だから、そのまんま色気抜きの艶噺(つやばなし)となって残った。
で、我が立川談志(いえもと)〝エロなくて何で己(おのれ)の落語哉(かな)〟とばかり、エロを入れてかかったネ。受けた受けた、ギャンギャンと受けた。今の後輩達はどう演っているか、興味の対象にもないが、「私の落語が一番助平」だと、自信を持っている。もっとも、弟子のブラックみたいな奴ァ別だが……。あ奴(いつ)はエロであり、グロだ。一度「円朝祭(えんちょうまつり)」というのに招かれてイイノホールで他の演者が真面目(まじめ)に演った中で、全篇(ぜんぺん)オ〇〇〇落語を演って場内爆笑の渦(うず)に叩(たた)き込んだ。結果、二度とお呼びがなかったっけ……。
落語というのが理解(わか)ってないのである。落語家というものは、何なのか、まるで識(し)らないのである。〝落語とは何か〟と論理的に説明出来た奴ァ、噺家も、それを批判した奴らも含めて一人もいなかった。一人もワカッていないのである。〝それを俺様がとりあえず論理づけた〟……、だから家元なのである(妙な理屈だネ)。高座であの四文字を普通に平気で喋っているのは、家元(わたし)だけで、それも堂々と講演などでも喋っている……。ナニ、威張ることはないが……。いや、威張るべきであろう。
おっと、抜けたフレーズがあった。
「なにィ〝飯を盛(よそ)れ〟だ……。目付きがおかしいぞォ。お稲荷(いなり)さんの鳥居かなんかに小便でも引っ掛けやがったろう。また腫(は)れたって知らねえぞォ。あん時も一晩中〝冷(ひ)やさせ〟やがって、手が疲労(くたび)れちゃったい。実家(さと)の両親(おや)に喋って笑われたい」
「そんなこと両親(おや)に喋る馬鹿ァどこに居る」
「……いいじゃないの、本当ことなんだから」
このフレーズ大好きなのだ。勿論(もちろん)家元のオリジナルフレーズ、実は実在(モデル)がいてネ、女優でネ……いやはや……どうも……コリャコリャ。
<立川談志・著『立川談志遺言大全集1 書いた落語傑作選一』より>