イノベーターの至言

第2回 なぜ人は「線を引く」のか

今日の至言

“Nature provides exceptions to every rule”

「自然はあらゆる規則に対して例外を設ける」(『英語名言集』加島祥造訳)

Margaret Fuller
May 23, 1810 – July 19, 1850
American author, journalist, critic, and women’s rights activist

 私たち人間が何かを認識したり考えたりするときには、無意識のうちに「線を引く」という行為を多かれ少なかれ必ず行っています。「分類する」とか「抽象化する」という思考、あるいは冒頭の言葉にある規則や決まりごと、マナー等も「線を引く」ことの典型的な例です。つまり渾然一体(こんぜんいったい)となった事象を理解し、応用するために、

 「ある基準で線を引いてその中のものを一体として捉え、その外側との区別をつける」

 という行為が、私たちの思考の根本にあるということです。

 「わかる」は「分ける」から来ているとも言われます。さらに身近な例で言えば、私たちが日常使っている「言葉」や「単語」も、「線を引いて区別する」ために人間が(一部の動物も)発明した強力な武器ということができるでしょう。

 これをイメージで表現したのが下の図です。

 人間が一定の認識をしていない「ありのまま」の世界というのは、いわば「アナログ」の世界なので、「0か1か」あるいは「白か黒か」というように、デジタルに割り切れるものではありません。しかし、人間はそこに「白」とか「黒」という概念を持ち込んで、どこかで線を引いて「ここまでは白、ここから先は黒」というふうに無意識に認識してしまうようになります。

 ドラマなどを見ていて「この人は『善い人』、この人は『悪い人』」などと思ってしまう現象も、この一例と言えるでしょう(実際の世の中には、「100%の善人」も「100%の悪人」もほとんど存在しないですね)。

 そこで冒頭の言葉に戻ります。自然界にはそれこそ「ごく自然に」さまざまな形で多種多様なものが存在するわけですが、人間は自分たちが認識しやすくするために、さまざまな形で「線を引いて」規則化し、それにあてはまらないものを「例外」とします。

 自然界にとってみれば「大きなお世話」なことに対して、人間が勝手な解釈をするわけです。これは生物学の分類しかり、あるいは社会規範などにもさまざまな形で存在します。例えば「常識」と「非常識」等というのもその一連です。

 ここで考慮に入れておくべきことは図で表現した「下の層」(ありのままの事象)も「上の層」(人間の頭の中=認識)も、時とともに変化していくということです。

 一般的には人間の認識のほうが常に一歩遅れて追っていくので、「ありのままの事象」が変化しているのに人間の認識が追い付かない場合に、そこにギャップが生じます。また、このような場合には時に「本末転倒」ともいうべき事態が生じます。

 よく「正しい日本語」が話題になりますが、これもその一例と言えるのではないでしょうか。言語は本来、コミュニケーションを取るという目的を満たすための手段のはずです。したがって時とともに変化していくのが自然ですが、これをルール化して「時を止めて」しまい、意味が通じている日本語を「正しくない」と一刀両断するのは、「頭の固い大人」の認識と言ってもよいでしょう(紫式部が生きていたら、いまの日本語を聞いて「何と乱れた日本語か」と果たして思うのでしょうか?)。

 先の「常識と非常識」にこれをあてはめると、「イノベーター」と、その対極の「イミテーター」(本連載では「イノベーター」の反意語として「人マネをする」の“imitate”からこう呼ぶことにします)との違いが顕著に出るのではないかと思います。

 先の図のイメージにしたがって違いを説明すれば、「常識」という線を引かずにものごとをありのまま見て、そこに新たな線を引き直すことができる人がイノベーターです。

 これに対して、いつまでもいまある線の引き方を引きずってその外側を「非常識」だと思っている人が、いつまでも陳腐化した常識に捉われている「イミテーター」ということが言えます。

 ただしイミテーターは、自分以外のだれか(とくに権威ある人や組織)によって線が引き直されたとたんに、手のひらを返したかのように、それまで「非常識」と言っていたものを「そんなの常識だ」と言い始めるかも知れません。

 そして、ものごとに勝手な線(ある意味の「偏見」)を引かない「イノベーター」の辞書には、もともと「常識」という言葉も「非常識」という言葉もないのではないでしょうか。

(次回公開予定:2012年8月20日)

2012年7月26日更新

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