落語的了見

第21回 ゲーム

与えすぎたら馬鹿になる

 ゲームについて語る。本当は避けておきたいテーマだ。というのも、世間でゲーマーと呼ばれている人間のゲームに対するこだわりがあまりにも尋常でなく、何を言っても攻撃を受けるからだ。

 以前Twitterで「子供にゲームばかりやらせると想像力がなくなる」と発言しただけで炎上した。私の考えはまったく間違っていない。ゲームをやってプラスになることもたくさんあるとは思うが、私が言いたいのは想像力の話だ。想像力を鍛えるべき時に大人のこしらえた世界を与えてしまったら馬鹿になることは誰にだってわかる。

 もちろん、想像力を奪うのはゲームだけではない。ディズニーランドだってそうだし、アニメだって映画だって、与えすぎたら馬鹿になる。ほどよくならばよい。特に映画、それも名画と呼ばれる作品ならば、観る側に想像力が必要となってくるから、見せるべきだ。

 しかしゲームには想像力を膨らませる要素がない。子供は棒きれひとつで遊びを考える。鬼ごっこだって、巡査と泥棒に見立てて遊ぶとか、高いところにいれば捕まらないとか、缶を蹴飛ばせば鬼の負けとか、想像力は果てしがない。その機会をゲームは奪う可能性があると私は主張している。

 そりゃ鬼ごっこよりテレビゲームの方が楽しいに決まっているが、果たしてそれでよいのか。子供が数人集まって部屋で各々が別のゲームをやっている光景は異常だと思わないか。

「映画や落語より教育によい」という反論

 「映画や落語はただ見ているだけ、聴いているだけ。それにくらべてゲームは己(おのれ)が参加して想像力を駆使するから芸術性が高く、子供の教育によいのだ」と反論してきたゲーマーがいた。「ゲームのやりすぎでそれこそ想像力がなくなり、物事をきちんと考えられなくなったのか」と言ってやろうかと思ったが、火に油を注ぐことになるからやめた。

 そんな反論は支離滅裂である。「受動的な芸能芸術が想像力を駆使しない」と言ったら芸能芸術は崩壊する。音楽を聴く、絵画を観る、小説を読む、すべて受動的な行動。人間が芸術から何かを得る場合、そのほとんどが受け身なのだ。たとえば、映画監督になりたければまずたくさんの映画を観ること、さらにほかのさまざまな芸術を観ること。それがあってはじめて、自分が何かを作ろうとしたときに前進できるのだ。

 しかし、映画も観ず、他の芸術にも関心を持たず、己の才能だけを過信して映画監督になろうなんていうのが結構いる。映画だけに限らずほかの芸術にもその手の輩(やから)が増えてきた。それは彼らがゲーム世代だからなのか。

芸術ではなくスポーツ

 私はゲームの芸術性を否定しているのではない。芸術と呼んでもおかしくないゲームはたくさんある。だがそれを芸術と呼ぶとしたら、作り手に対してのことだ。ゲームをやることを、芸術を楽しむとは言えない。

 ゲームは、芸術ではなくむしろスポーツではないか。高度なテクニックと反射神経を要する現代のゲームは、もはやスポーツの領域である。ただスポーツは、やれば体力がついたり、観客を感動させたりできる。果たしてゲームはそうなれるのか。今のところは難しいのではないか。

 体力はつかないから、スポーツのように教育上よろしいとは判断できないであろう。ゲーム好きの人は、他人がやっているゲームを観て感動したり興奮したりはする。しかしオリンピックのマイナー競技が、それを初めて観る人々を感動させるように、ゲームも興味のない人を感動させられるようになるかどうか。

 今のところはパチンコとあまり変わりはないだろう。他人がやるパチンコを見て楽しむ奴なんかいない。ただパチンコ好きは人の打っているパチンコを見ても楽しいらしい。「ゲームをやることは芸術を楽しむことなんだ」と主張するのは「パチンコを打っていることは芸術を楽しむことなんだ」と言っているのと同じだ。

落語なんか誤解されまくっている

 まあ、ゲーム好きの人はゲームについて部外者から何か言われることが嫌なだけなのだろう。それは実はゲームの世界だけではなく、芸術の世界にもあること。自分だけで「これは芸術だ」と騒いでいる、意味不明の芸術もどきをやっている人々がいる。世間に認められないことによる卑屈な心が、何か言われると怒りにつながるのである。

 そこへいくと落語なんか世間から誤解されまくっているが、堂々としたもんだ。「こんなすごい芸能はない」という自負が心を穏やかにしている。

 あまりにものんびりすぎるから、談志や志らくが落語のすごさをやたら主張しまくるのだ。それでもたった二人だけ。粋なもんだ。

2013年7月16日更新

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