権利放棄を迫る兄弟姉妹
私が代理人弁護士としてミャンマー人から委任を受けた事案で、日本人による外国人に対する差別意識が伏在していると思われるものがいくつかある。弁護士としての職業倫理上守秘義務を負っているため詳細は明らかにできないが、ある程度抽象化し、若干のデフォルメを加えたうえで内容を紹介しよう。
私が経験した事案で、ミャンマー人に対する日本人の差別意識をとりわけ感じる例は、ミャンマー人女性と日本人男性が婚姻し円満に結婚生活を送っていたが、不幸なことに日本人の夫が急逝したために発生した相続をめぐる争いである。私が弁護士になっておよそ3年半の間、法律相談を受けたりその関連で知り合ったりしたミャンマー人の数は、おそらく100人は下らないと思うが、その中で日本人の夫を亡くしたミャンマー人女性が相続問題に苦しんだ例は2件ある。
典型的には次のような流れをたどる。
日本人夫がある日突然亡くなる。日本人が亡くなった場合の相続問題に適用される法律は日本の法律であるから、その妻であるミャンマー人女性は、日本の民法に従って夫の遺産を相続する権利を持つ。ところが、もともとミャンマー人との結婚を快く思っていなかった亡日本人夫の兄弟姉妹が、葬式が終わるやいなや、悲嘆にくれるミャンマー人女性に対し、「夫の遺産を相続する権利を放棄します」といった文言の記された書面に署名を迫る、というものである。
アジアやアフリカの人々に対する差別意識の表れ
私が経験した2例のうち、1件は代理人としてミャンマー人女性の正当な相続権をどうにか確保し最終的な解決を図ることができたが、残る1件については嫌気がさしたこともあったのだろう、ミャンマー人女性は正当な権利を主張することもなく、ヤンゴンに帰国してしまった。
私はこの二つの案件を目の当たりにして、きわめて腹立たしい思いがした。ミャンマー人妻に対して相続放棄を迫る夫の兄弟姉妹は、明らかにミャンマー人に対して差別意識を持っている。
自分の兄弟の死を偶然の契機として転がり込んできた財産を、一部とはいえミャンマー人などに渡してなるものか。この際、騙(だま)してでもよいからミャンマー人から権利を奪い取ってしまえ。ミャンマー人は日本の法律や相続制度に詳しくないのだから、権利を放棄しますと言わせてしまえばこちらのものだ。
このようなエゴイズム以外の何ものでもない薄汚れた利己心とミャンマー人に対するひどい仕打ちを、同じ日本人として悲しく思う。
相続をめぐる争いは日本人同士でも起こりうる。けれども、遺産を相続する者が日本人であるならば、少なくとも日本語は理解できるのだから、日本語を十分には読解できない外国人に対するのと同じ手法を使って陥(おとしい)れる例は多くないと推測する。日本語や日本の法制度の理解が不十分であるという弱みに付け込み、権利を放棄させるというやり方は、外国人に対する特有の手口であろう。
そしてこれは単にエゴイズムの表れとしてのみ捉(とら)えるべきではなく、外国人とりわけアジアやアフリカの人々に対する差別意識の表れであると考える。なぜこれがアジア人等に対する差別であると考えるのかについては、次稿で述べてみたい。
2014年6月25日更新 (次回更新予定: 2014年7月25日)
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