イノベーターの至言

第5回 「怒り」がイノベーションを生む

今日の至言

“Fury, …is the only serious source of innovation.”
怒りがイノベーションの唯一の真の源である。
Thomas J. “Tom” Peters
Born in 1942
American consultant and author

「現状肯定の守旧派」の壁を突破するために

 今回の「名言」は経営コンサルタントのトム・ピーターズのものです。『エクセレント・カンパニー』という正統的な名著で有名になったトム・ピーターズの著作は、「経営破壊」「経営創造」以降はすっかり「芸風」が変わって非常に身近な商品や人物を題材として、時には過激に顧客志向の精神やプロフェッショナリズム、そしてイノベーションを説き、大変魅力的な著者です。この言葉は、最新作『エクセレントな仕事人になれ!』について語るトム・ピーターズのスピーチからの引用です。

 イノベーションの「唯一の」源が人の怒りであるというのが彼の主張です。「源の一つ」ではなく「唯一である」ことを強調しているところがポイントです。「極論する」というのが彼の論説スタイルですが、そうだとしてもこの一言には彼の強いメッセージが込められていることを感じます。

 同書では、イノベーションがもたらす変化に抵抗する「現状肯定の守旧派」の壁を突破するためのモチベーションとして、怒りは絶対に不可欠であるとも書かれています。

 では、そもそも「怒り」は一般的にどんな形でイノベーションに貢献するのでしょうか。怒りがどんな要素で成り立っているかを考えてみると、イノベーションの源として最適である理由が見えてきます。ここでは三つの要素を抽出してみます。

 

「やり場のない怒り」にニーズが潜んでいる

 一つ目は、怒りとは「満たされない欲求」から来るということです。

 満たされない欲求(Unmet Needs)は、商品企画などをする上で考えるべき必須要件です。しかしながら「満たされない欲求を探せ」と言われてもなかなか難しく、ユーザーの不満をインタビューやアンケートによってリストアップするという方法がとられるのですが、これらには限界があります。質問の質によって回答が大きく左右され、往々にしてその質問は表面的なもの、つまり「いまの商品にどんな不満がありますか?」といったものになりがちです。「いまある商品」から発想するのでは、改善の域を出ません。

 イノベーションは、一歩一歩の漸進的な「インクリメンタルイノベーション」と、革新的かつ斬新な「ラディカルイノベーション」に大きく分けられますが、直接的な質問によるインタビューやアンケートで実現できるのは「インクリメンタルイノベーション」です。

 では、「ラディカルイノベーション」を実現する「満たされないニーズ」はどうやって探るのかといえば、「意図せぬユーザーからの怒り」を探るのが手っ取り早い方法です。

 ここで怒りのもう一つの要素が出てきます。それは、強い怒りほど往々にして「やり場がない」ということです(やり場があれば行動に移せるので、その分いくぶんでも怒りを解消できます)。つまりその場合の怒りは、直接的に「何をどうしたい」という具体的な形になっていない分、潜在的なニーズを含んでおり、これをいかに形に表して実現していくかがイノベーターの腕の見せ所というわけです。

 「このボタンをこっちに動かしてほしい」とか「もう少し速くしてほしい」という具体的な要求はわかりやすいですが、その分誰でも気づくので差別化が難しくなります。

 

感情はイノベーションの機動力

 怒りの三つ目の特徴は、「強い感情である」ということです。ビジネスを動かすものとして、大きく論理と感情の二つの側面がありますが、イノベーションを実現するための機動力としてはやはり「感情」の要素を無視できません。しかも怒りというのは他の感情に比べて「強い」側面があるので、モチベーションとしても強力であると言えるでしょう。

 「怒りっぽい」というのは短所としてとらえられがちですが、そればかりとは言えません。怒りっぽい人には2種類あります。「単に怒って終わってしまう人」と、その強力なエネルギーを「前向きかつ具体的に転化できる人」です。後者がもっともイノベーターとしてふさわしい人と言えるでしょう。別の言い方をすると、「穏やかな人格者」というのはイノベーターとしては不向きです。

 読者の皆さんの最近の「怒り」は何だったでしょうか。それをイノベーションに変える方策をぜひ考えてみてください。

(次回公開予定:2012年11月20日)

2012年10月20日更新

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