イノベーターの至言

第7回 「人と違うことをする」がすべて

今日の至言

“In order to be irreplaceable one must always be different.”
「かけがえのない存在になるには、常に人と違っていなければならない」
ココ・シャネル
(著/訳=デイビッド・セイン/佐藤淳子、『世界のトップリーダー英語名言Business』Jリサーチ出版)

「天邪鬼」はつねに一定数いるが少数派

 今回の至言は前回に引き続き、ココ・シャネルのことばからです。

 “irreplaceable” は文字通り「交換不能」であるということです。これは人にも物にもサービスにもあてはまります。つまりイノベーターとは、「交換不能な」商品やサービスを生み出せる「交換不能な」人であるといえます。そして交換不能であるためには人と違っていなければならないという、あまりに当たり前といえるこのことばが響くのは、いかにこれを実践している人が少ないかということのあらわれでしょう。

 世にあふれるビジネス書で発せられているキーメッセージも、多くは突き詰めれば「人と違うことをやれ」です。これも「いかに人と同じことをやろうとする人が多いか」を物語っているものだと言えます。

 「創造する人は少ない。創造できない人は山ほどいる」という前回のシャネルのことばからもわかるように、つねに人と違うことをしようとする「天邪鬼(あまのじゃく)」は、いつの世にもどこの国にも一定数存在していますが少数派です。「イノベーターであるためには天邪鬼でなければいけない」ということは、おそらく最も基本的な要件であり、かつ、ある程度は生まれつきの資質なのかも知れません。

 イノベーションを生み出すための他のスキルは鍛えることができても、この「天邪鬼」という資質は後天的に鍛えようと思っても鍛えることはできない可能性は十分にあります。

 では、この至言は多くの人にとっては意味をもたないのかといえば、そうではなく、主に次の二つのことを私たちに教えてくれます。

大多数の付和雷同型 vs 少数の天邪鬼

 一つ目は、「大多数の付和雷同型の人と少数の天邪鬼がいて、イノベーションを生み出すのは常にその少数派のほうである」という構図を理解しようとすることが重要であるということです。

 付和雷同型の人は天邪鬼の発想を「普通ではない」という理由で否定するべきでなく、また「天邪鬼」のほうは「抵抗は当然の『産みの苦しみ』である」ことを十分に認識しておくべきでしょう。

 二つ目は、せっかくの生まれつきの天邪鬼が「処世術」として付和雷同型を演じて一生を終えてしまうような、「才能の浪費」を最小限に食い止める必要があるということです。

 この至言が日本人によって語られたものでないことから、天邪鬼(イノベーター)が少数派であること、そして大多数から抵抗される宿命にあることはユニバーサルな構図であるといえます。しかし、「和を以(もっ)て貴(とうと)しとなす」という文化をもつ日本社会においては、この構図が助長される可能性があるので注意が必要でしょう。

日本人は「土俵が決まった戦い」には強いが

 事業や製品の戦略を考える上で基本中の基本のキーワードは「差別化」(あるいは「差異化」)ですが、これは英語では “differentiate” と表現される非常にわかりやすいことばです(要するに「differentにしろ」と言っているわけです)。

 しかし、よく考えてみると、「差別化」ということばは “differentiate” とは少しニュアンスが違っているような気がします。「差」ということばには「同じ尺度の上で差をつける」「評価指標が同じ」、つまり同じ土俵で戦うニュアンスが含まれているからです。

 これらの差がまさに、本連載の第3回で取り上げた「同じ土俵でいかに戦うか」と「まったく違う土俵を定義してしまうか」の違いに相当するといえるでしょう。

 ビジネスで何気なく使っている表現にも、「土俵が決まった戦いに強い」という日本人気質がにじみ出ているような気がします。その気質は武器にもなりますが、新しいことを生み出すイノベーションにおいては、ブレーキとなることも多いのではないでしょうか。

 冒頭のシャネルのことばは「人」にも「もの」にも当てはまります。もともと一人一人違っているはずの人間は、一つ一つ違うものを生み出せる可能性を必ず持っているはずなのに、何らかの思い込みや「常識」がそれを知らず知らずのうちに阻害してしまっていることを改めて思い出させてくれることばと言えるでしょう。

(次回公開予定:2013年1月20日)

2012年12月23日更新

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