会社の「これ本当に必要?」

第4回 社内は呼び捨て

本連載は、画一的な効率性を重視した「旧来型の組織」では殺されてしまう創造性を発揮するための「新しい組織」について考えます。ここでの「新しい組織」とは、旧来型の組織と完全に置き換えるのではなく、創造性が必要とされる業務を切り離して旧来型の組織とは別の考え方で運営する組織を指します。

今回取り上げるのは、「社外の人に対して社内の人間は呼び捨てにする」という、日本企業では「常識中の常識」とされるビジネスマナーについてです。

新入社員にまずはじめに「教育」されるこの常識が、環境変化によって「本当に必要?」と思える状況になってきていることを三つの視点から考察してみます。

社外のお客様への対応の際に「◯◯部長はいま外出しています」などと言ってしまって、「社内の人は呼び捨てにしろ。常識だ!」と先輩から怒られるというのは、新入社員がやらかす失敗の定番といっていいものの一つです(おまけにその直後に◯◯部長その人に対して、「◯◯!」と呼び捨てしてしまったというダブルパンチの失敗を「伝説」として残す社員もいます)。

「内と外とを明確に区別する」という日本の文化や、「上位の者にはへりくだる」という個人レベルの謙譲の姿勢を会社でも適用しているのでしょう。この慣習の意図は十分理解できますが、ビジネス環境の変化によってこの慣習自体が「本当に必要?」と呼べる状況が増えてきています。

大きく三つのビジネス環境の変化からこの「常識」を考察してみます。

ビジネス環境の変化①
終身雇用が崩れて転職が多くなっている

まずこの慣習の隠れた前提の一つが、「社員が終身雇用で転職しない」というものです。例えば自分の上司が他社に転職してしまった場合、その上司を通じて付き合いが始まった社外の人に対して、その元上司との出来事を言及するとき、「昨日、◯◯(元上司)から電話がありまして……」などと呼び捨てにするのもおかしな気分だし、さりとて相手がその上司がすでに退社したことを知らない場合に突然「◯◯さんが……」と「さん付け」するのもお互いに違和感がある、という状況に陥ります。

以前は「レアケース」で片付けられていたこうした状況も、転職が普通になってきた現在のビジネス環境では頻繁に起こっているのではないでしょうか。

ビジネス環境の変化②
「社内」と「社外」の境界があいまいになってきている

かつて、「すべて内製」という方針で、すべての業務を社内でこなすことが普通だった時代がありました。しかし今は、経理や給与計算、情報システムなどの間接業務を外注化したり、あるいは研究開発や製造といった、社内でやるのが「常識」だった分野においても外部の会社を活用することが珍しくなくなってきています。こうした「アウトソーシング」や「オープンイノベーション」の時代には、どこまでが社内でどこまでが社外なのか、という境界が不明確になっていきます。

「実は社外の人だが社内の人間としての名刺を持っていて、状況によってはその名刺を使っている人」も少なくないでしょう。ではそのような人の場合は社内の人間とみなして「呼び捨て」にすべきかなのかどうか。あるいは、A社と話すときには「内部扱い」だが、B社と話すときは「外部扱い」の社員がいるケースもあるでしょう。

「呼び捨て」と「さん付け」を使い分けることを求められる新入社員にとって、まさに「悪夢」といっていい状況が増えてきていることは容易に想像できます。

こうした時代に「社内」と「社外」を明確に区別することを前提とした慣習を残すべきかどうなのか、はなはだ疑問になってきます。

ここまで述べてきたのは、この習慣の前提となっている「明確な社内・社外の区別」が、①個人レベル、②会社レベルのいずれにおいてもあいまいになってきている、という環境変化ですが、加えて、会社間の関係が「序列という縦の関係」から「対等という横の関係」に変化していることも、「社内は呼び捨て」が「本当に必要?」と思わせる、付随的な要因として挙げられるかも知れません。

ビジネス環境の変化③
会社間の関係がフラット化してきている

「お客様は神様」で、「『出入りの業者』は忠実なしもべ」という、昔ながらの会社間の関係も崩れてきています。

一つには、自動車業界や通信業界などで当たり前だった「垂直統合モデル」による会社間の関係が「水平分業」へと変化してきています。「元請け会社の言うことが絶対」で「下請け業者はすべて言いなり」という関係から、請け負う側の会社も自由に提案し、他の系列の仕事もできる代わりに仕事の保証もなくなるという関係に業界構造が変化している世界もあります。

二つ目は、ビジネスの形態が「単なる物売り」から「顧客の課題解決」へとシフトしてきているということです。商品の差別化が難しくなる、いわゆる「コモディティ化」が進んで来た業界では、いかに顧客のニーズを統合的に解決できるかという、「ソリューション型」や「課題解決型」へと差別化ポイントがシフトしてきています。

こうしたビジネスにおいては、単に提案のやり方を工夫するだけでなく、会社間の関係を「パートナー」という対等の関係に近づけていくことが求められます(現にそれを会社のポリシーとして唱うところも増えてきています)。

このようにフラット化された会社間の関係においては「社内は呼び捨て」の前提の一つになっている(個人レベルでの「敬語」の前提と同様の)会社間の序列という慣習にも疑問符がつくことになります(会社の場合は個人と違って必ずしも「下」から「上」への場合のみの謙譲表現ではありませんが)。

***

25年以上前に、社内の関係のフラット化などを目的として経済同友会が提唱し、多数の会社でも採用された、「さん付け運動」(「××課長」と役職で呼ぶのではなく「××さん」と呼ぶように推奨する運動)が流行しましたが、それと同様に「社内もさんづけ運動」が議論されてもいい時代が来たのではないでしょうか。

2014年1月2日更新 (次回更新予定: 2014年2月1日)

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