会社の「これ本当に必要?」

第6回 社内の標準化

本連載は、画一的な効率性を重視した「旧来型の組織」では殺されてしまう創造性を発揮するための「新しい組織」について考えます。ここでの「新しい組織」とは、旧来型の組織と完全に置き換えるのではなく、創造性が必要とされる業務を切り離して旧来型の組織とは別の考え方で運営する組織を指します。

今回取り上げるのは、社内のさまざまな業務手順などの「標準化」です。どの会社や組織でも、ある程度仕組みが整ってくるにしたがって考えるのがこの「標準化」です。組織内のほとんどの仕組みがそうであるように、この標準化にも功罪があります。どういう場合に「功」となり、どういう場合に「罪」、つまり「これ本当に必要?」ということになるのでしょうか。

会社の「年齢」で異なる顧客の期待値

会社や組織は、立ち上げたばかりのころは良くも悪くも個人の能力に依存した仕事のやり方をします。したがって品質にも大きなばらつきが出てくることになります。

会社を始めたころは、これが逆に会社の強みとなり、創業者の飛び抜けた個人的能力で会社が成り立っている場合がほとんどです。つまり、良い方向への「個人的ばらつき」が会社の差別化要因となるわけです。ところが会社が成長して大きくなり、社会的認知が高まってくると、顧客からの期待値も変わっていきます。

ある程度「大きくて有名な」会社に仕事を頼むときの顧客の期待値というのは、とんでもなくすごい成果(物)が出てくることではなく「何かあったときの対応の良さ」や、「最悪でもこのレベルのものは出てくるだろう」という、「マイナスレベルの最小化」になります。

会社として必要な対応は、標準以下の品質をいかに上げて最低品質を確保するかということになります。この場合に必要なことは、悪い意味での「個人依存」の仕事のやり方を排してある程度のレベルで標準化し、マニュアル化してこれを万人に守らせることです。こうすればとんでもなく品質の低い仕事を最小化することができます。これが標準化の「功」の部分です。

「負のぶれ」と「正のぶれ」

これに対して、先に述べたように、小さい会社や新しい会社に顧客が求めることは、一つはコストでの優位性ですが、さらに重要なのは、その独自の差別化ポイントで、これは「良い意味での個人依存」によるところの多い要素ということになります。

特に新しいアイデアが求められるような仕事においては、上記のような「標準化」があまりに進行しすぎると、品質面で「負の側のぶれ」が少なくなると同時に個性が喪失して「正の側のぶれ」も少なくなっていきます。つまり「上も下も平均値に近づいていってしまう」ことになります。

「正の側のぶれ」を大きくし、「負の側のぶれ」を小さくすることができれば、それが理想的なのですが、そううまくはいきません。平均以下のレベルを上げるのと、平均以上の部分をさらに「尖(とが)らせる」のとでは、全く異なるマネジメントのやり方が必要なのです。

それを誤って、前者の感覚で後者もやろうとすると、レベルアップのためによかれと思ってやっている施策がそのまま「上の足を引っ張る」という形での平均化になってしまう可能性が十分あります。

典型的な例が人材の育成や評価の方針です。

 

QS_20140305-224355

この表に示すように、「底を上げる」のと「尖らせる」のとではとるべき対応が異なるはずなのに、実際はこのような区別がされている企業はほとんどないでしょう。とくに日本企業では、「画一的製品の大量生産モデル」という形での底上げの発想が根強く残っているため、創造性が求められる場面でも依然としてこの価値観でオペレーションが行われている場面が多いように見受けられます。

「底を上げる」ことでマイナス面を最小化して平均点を上げるために「やって当然」と思われがちな標準化も、知らず知らずのうちに尖った才能やアイデアの芽を摘んでいる可能性があります。あらためて「本当に必要か?」を考えてみる必要があるでしょう。

2014年3月5日更新 (次回更新予定: 2014年4月1日)

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