ミャンマーへの道

第15回 検察の思考過程 − 日本人による外国人差別(7)

検察の思考と裁判官の意識構造の関係

前稿で,裁判所が,外国人とりわけ非欧米人に対する差別と親和的な深層心理を持っていることを私が疑う理由について述べたが,別の理由は次の通りである。

それは,世論を重視する検察と,その検察に同調・迎合しやすい裁判官の意識構造である。簡単に言ってしまうと,まず,検察は世論を引き受け,社会の秩序を維持するために犯罪を摘発し,次に,裁判官は,検察官によって法廷に連れ出された目の前の被告人を,真犯人かどうかを根本的に疑うこともなく,断罪する。このようなことである。

ここまで極論することは裁判官に対して失礼かもしれない。しかし,私が現実に目の当たりにした出来事や,数ある書籍の記述から,裁判官の意識にそのような傾向があることは否定できない事実と思っている。

私が考える仮説を記述してみる。まず,検察の思考についてである。

検察官は「公益の代表者」

検察官は,法律上「公益の代表者」と定められている(検察庁法)から,その職責は,いわば“世の中を良くすること”である。そして,世の多数派によって形成される意見が世論である以上,職務上,世論を気にするし,それに同調した思考過程を経ることとなるのは,ある意味やむを得ないことである。これを頭から非難することはもちろんできない。

ただ,世論の中には,確たる実証的根拠なしに形成されるものもあるので,闇雲に世論に追従するのは危険なことである。一例として,平成24年8月に内閣府が行った「治安に関する特別世論調査」の結果がある。

「世論」と「実態」

この中で,「ここ10年間で日本の治安はよくなったと思いますか。それとも,悪くなったと思いますか」という質問に対して,「どちらかといえば悪くなったと思う」「悪くなったと思う」と答えた人の割合が合計で80パーセントを超え,さらにそのうち3割近い(28.2パーセント)人が,理由として「来日外国人による犯罪が増えたから」との選択肢を選んでいる。

ところが,警察庁が発表している「来日外国人犯罪の検挙状況」(平成25年度版)によると,平成14年における来日外国人の検挙件数は4万615件であるのに対して,その10年後の平成24年の同件数は1万5368件であって,平成24年の方が大幅に減少しているのである。

ヤンゴンの露店で売られている雑誌
ヤンゴンの露店で売られている雑誌

外国人による犯罪が10年前と比較して増えたことにより,治安が悪化しているという感覚は,客観データの裏づけのない,思い込みによるものである。このような誤解は,ひとつには,マスコミによる外国人犯罪の,時にはセンセーショナルな報道に影響を受けた結果であると考えられる。

ただでさえ人を疑うのが商売の検察官が,このような調査結果や世論を得たならば,日本人による犯罪の場合以上に,検挙された外国人を真犯人と信じて疑わないことは確実であろう。

次回では,裁判官の思考態度について考えてみる。

●内閣府:「治安に関する特別世論調査」の概要

●警察庁:来日外国人犯罪の検挙状況(平成25年)

2015年1月31日更新 (次回更新予定: 2015年2月25日)

ミャンマーへの道 の更新をメールでお知らせ

下のフォームからメールアドレスをご登録ください。


メールアドレスを正しく入力してください。
メールアドレスを入力してください。
ミャンマーへの道 一覧をみる