ミャンマーへの道

第2回 「会話より文字」でミャンマー語を学ぶ

2009年9月、法務省のホームページで発表された合格者の受験番号の中に、自分の番号があることを確認した後、早速ミャンマー語学校を探し始めた。都内には、少ないながらもいくつかミャンマー語教室があるようである。

私はインターネットで最初に探し当てた教室に、翌週授業見学に行った。そのミャンマー人教師は市販のテキストを用いて、生徒5、6名に対し、様々な常用句を教えていた。教師と生徒数名は和気あいあいと楽しげに授業に臨んでいたが、私は日常会話や旅行における気の利いたフレーズを覚えて会話を楽しむというよりは、ミャンマーを理解するための土台作りをしたいという気持ちが強かったから、この教室を諦(あきら)め、他を探すことにした。

次に訪れた教室が、現在私の仕事上のパートナーでもあるチーハン先生の教室である。チーハン先生の教育方法は、先の教室とは全く異なっていた。その手法は、まず、ミャンマー語の文字を覚えさせることから始める。すなわち、日本語の五十音に相当するミャンマー語の文字およびその派生形を、アルファベットによる助けを借りずに、正確に発音させることが第一ステージである。その理念は、ミャンマー語の文字は独特で複雑だが、一旦これをマスターしてしまえば、文章を読むことが可能となり、そうすれば、あとは自学自習へとフィールドを拡(ひろ)げることができる。

この理念は、私が思い描いていたミャンマー語学習の姿と重なり合っていた。そこで、チーハン先生の下でミャンマー語を習うこととした。

ミャンマー語の学習は、まずはこの文字を覚えることから
ミャンマー語の学習は、まずはこの文字を覚えることから

チーハン先生の教育手法には、他にも、私の語学学習に対する考えと相通ずるものがあった。言語に対する情報量を多く提供するという点がその例である。現代の学習方法は、語学に限らず、必要最小限の情報に基づき、お手軽に何かをマスターするという傾向が、以前にも増して顕著であるように思える。いわく、『これだけで○○はマスター!』『3時間で○○を理解!』など。もちろんそのような本の著者も、タイトルに示された方法だけでは十分な会得など不可能であることは百も承知であろう。しかし、利用者側がタイトルに踊らされているような気がする。

チーハン先生は、ミャンマー語の文字一つ一つについて、この文字の元々の象形は、「ひしゃく」であるとか、花の「ガク」であるといった出自や、この言葉の語源は何々であるといった背景情報をふんだんに提供する。情報量の多い方が、文字や単語についての印象も深まるし、何よりも、学習が進むにつれて、その語が用いられている文脈についての文化的、歴史的背景を探求するきっかけにもなるだろう。

私は、チーハン先生に、文字や単語についてなるべくたくさんの情報をください、と言った。チーハン先生はそれに対して、「大歓迎です」とおっしゃった。私はますますチーハン先生の語学教育に共鳴し、信頼を深めた。

2013年11月5日更新 (次回更新予定: 2013年12月1日)

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